この質問の回答は簡単です。一言で言ってしまえば、「病気に罹らせたくない から、病気で死なせたくないから。」と言えるでしょう。 犬猫には、細菌・ウイルス・原虫等が原因となる様々な伝染性の病気がありま
す。これらの病原体は、外傷・飲食物・吸血昆虫・飼育者の衣服や靴等を通し て運ばれ、体の中へと侵入します。いったん病原体が体の中へ侵入すると、発 病するか否かと病気の重さは、その動物の持っている抵抗力によって決まりま す。 抵抗力は、栄養状態・年齢・ストレスの如何・体質などのさまざまな要因が関 与しますが、最大の要因は「免疫力」です。 免疫には、3つの種類があります。1番目は、自分自身が病気に罹って運良く 回復できた場合に体の中にできる「自然獲得免疫」です。この免疫ですと、病 気の感染をあらかじめ防ぐということはできませんし、免疫ができるのに時間 がかかれば、死につながることもありえます。 2番目は、分娩の際に母親から受け継ぐ「移行性免疫(母子免疫)」です。子 犬子猫は、最も普通の形として、この移行性免疫によって病気から守られてい ます。しかし、この免疫は、生後6週齢〜12週齢までに徐々に失われてしま い、それ以後は病原体に対して免疫のない無防備に状態になってしまいます。 そこで、3番目の「ワクチンによる免疫」が必要になってくるわけです。 しかし、移行性の母子免疫が高いレベルで残っているうちは、ワクチンを接種 してもブレイクされていまし、有効な免疫力は得られません。母子免疫の消失 時期にあわせて、2〜3回のワクチン接種が必要です。 このようにして得られたワクチン免疫も一生有効というわけではありません。 時間の経過とともに免疫力のレベルは下がっていきますので、原則として1年 に1回の補強接種を追加してあげる必要があります。
この補強接種を嫌がる人達がいます。最近では、マスコミに登場する人の中に しばしば補強接種を否定する方が見受けられます。 曰く、「人間の場合を考えてみろ、ワクチンなんて子供のときだけにするもの であって、大人になればしない。追加のワクチンなんて獣医師とワクチンメー カーが儲けるために言っているのにすぎない」と。 でも、これは自らの認識不足を露呈しているだけのことです。何故なら、人間 においては、生命に関わるような危険な伝染病から私達が隔離されているから です。過去であれば、赤痢やコレラが、そして現代であればマールブルグやエ ボラ等の危険な病気が巷に溢れているでしょうか? 通勤通学の途中で道を歩 いている際に感染する危険があるでしょうか? 犬や猫の場合は、生命にかかわる伝染病に感染する危険が日常の中に存在して いるのです。同列には論じられません。 赤痢やコレラは無くなったわけではない、今でもときおり発生しているという 意見があるかもしれません。たしかにそのとうりです。そして、これらに感染 した人間は地域の中核病院の伝染病隔離病棟に文字どうり隔離されるのです。 現在の日本の厚生行政は、伝染病からの隔離政策をとっており、ワクチンもそ れにそって必要最小限の適応となっています。伝染病と接触する機会が極めて 少ないという場合においての適応なのです。
また、さらに子供の頃のワクチン免疫が一生続くかと言えば、これもNoです。 「結核」を考えてみて下さい。 この病気については、小学生の頃、ツベルクリン検査を実施して、その結果に もとづいてBCGワクチンを接種しています。では、この免疫ははたして一生 有効なのでしょうか? 99年の新聞記事から、事実を追ってみます。 7月1日 埼玉県大宮市(現、さいたま市)の中学校で結核が集団感染、生徒 教員が等100名が感染。 7月3日 石川県の病院で、11名が感染し、2名の患者が死亡。 7月5日 41県で結核の集団感染が報告され、本年(99年)1月以降1万 3908名の感染が集計。 8月6日 滋賀県で28名、集団感染。 9月12日S大学の医学生2名が結核に感染、関係者を検査したところ42名が 強要性と判定。 とこのような具合です。中学生の時点で、すでに結核の感染を防ぐのに必要なだ けの免疫力は失われているのです。 体力のある大人といえども、感染が成立することを意味し、また、その事実が特 定の人間に限定した事象ではなく、病原体が存在すれば感染が成立する危険があ ることが分かります。 ワクチン免疫が一生有効ではないことが、御理解いただけるのではないかと思い ます。
室内飼育の犬猫だから、ワクチンは必要ないと考える飼育者の方もいますが、無 菌室や無菌箱の中でもないかぎり、病原体の侵入を完全に防ぐことはできません。 むしろ、外界からの感作が少ないところで飼育されている動物の方がいったん発 病すると重症になることもあるのです。 犬や猫を病気で失う悲しみを考えてみて下さい。彼等を守ってあげることができ るのは飼育者であるあなたしかいないのです。 ワクチンは、飼育者としての最低限の義務であり、家族の一員である動物達への 思いやりといえるのではないでしょうか。
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