ついていない時
車を運転していて、一度赤信号に引っかかると次々と交差点の赤信号で止められるときがある。こんなとき「今日はついていないね」と自嘲気味に舌打ちした経験のある方もあるだろう。今日は銀行でそんな場面になってしまった。
町内の金庫番をしていると銀行に出入りする機会が多い。できるだけ用事は纏めて出かける回数を少なくするようにしている。当然一回出かけると処理する件数は多くなる。
お金に変わりは無いが町内の予算は費目ごとに分類されていて、どんぶり勘定で出し入れができない。費目によって出し入れする金融機関が違う。一つの金融機関に纏めればいいようなものだが縦横のしがらみで一本化できないのであろう、と新米会計係は不満をもちながら金融機関のハシゴをしている。
まず信用金庫でお金を引き出し、その金を次の銀行から振り込む。その銀行からATMで現金を下ろして別の銀行に持っていくというストリーを立て出かけた。
信用金庫で三種類に分けて卸した。袋ごとに仕分けしてバックに入れ信用金庫を出た。
銀行で振り込もうとして袋を開けたら500円足らない。別の二つの袋を調べたが入れ違いはなかった。三つの袋に入れるときの記憶は忘れてしまって思い出せない。仕方がないから自分の財布から不足分を継ぎ足し振り込んだ。
ATMで現金を引き出すところまで漕ぎ付けた。暗証番号を打ち込むが受け付けない。これまでは手元に番号を控えておいてそれを見ながら打ち込んでいた。
もう半年も経ったから大丈夫だと思って今日はメモを持ってこなかった。たった四つの数字だから正確に覚えていると自分では自信があった。しかしATMは少しの間違いも許さず、何回もやり直しを要求した。
うしろで待っている人のことが気になり、諦めて一旦引き下がった。家に電話して確かめた。四つの数字は間違いなかった。ただ組み合わせの順番が違っていただけのことである。
再度挑戦、順調に行くかにみえた。「この金額は引き出せません」とまた拒否される。まさか?何回もやっても同じことである。引き出しに見合う残高がないというのだ。
この口座には毎月相手から振り込まれたものを私が引き出し、別の金融機関に納めることになっている。この口座から引き落とすのはいつもより二日ばかり早いが、ついでだから今日済ましておこうと引き出しにかかったのである。
金額が40万という単位では私が簡単に立て替えておける金額ではない。また日を改めて出直すしかない。銀行をしぶしぶ出た。
銀行を出て信用金庫に立ち寄った。恐る恐るカウンターの女性に申し出た。
「500円でしょ。カウンターの下に落ちていましたよ」
もう少ししてから電話しようかと思っていたところですと、半年も出入りしているとすっかり顔と名前・住所を覚えられているらしく、その女性は言ってくれた。
平身低頭しながら500円を受け取った。500円金貨だから床に落ちれば音で気付いただろうに、それすら気付かなかったとはどうしたことか、自分でも納得いかないが現実である。
用事を纏めてやろうとすると先を急いで注意力が散漫になるようだ。数字に弱くなる一方で思い込みがひどくなるのは歳のせいにしてよいだろうか。
「二度あることは三度ある」というがいやな思いをした1日であった。
世の中自分のペースではなかなか動いてくれないようだ。