岩宇土山・福寿草観賞登山

山 行 日 2003・3.1〜2

天   候  1日 雨  2日 快晴
山   域  白髪岳(1417m(雨で猪ノ子伏で引き返し
       岩宇土山(1347m)



 
 31日         雨の温泉郷

趣味という領域は、やっている本人以外には楽しさ面白さは理解できない。

大雨注意報が出ているのに、よくもまぁ山に登りたいもんだ、と家内は心の中では心配し、呆れて見送ったにちがいない。

31日の人吉地方は、午後から夕方まで10ミリの雨量で、夜になると曇り、翌日にかけて回復すると予報が出ていた。朝6時、諫早を出発するとき、すでに降り出した。

今回の山行の目的は、岩宇土山の福寿草観賞が目的であったが、ついでに人吉の白髪岳にも登ることにした。

熊本・宮崎県境付近の山に出かけるときは、1回の山行で二つの山に登る計画をする。西の果て長崎からは高速自動車道を利用しても、一つの山に登って日帰りでは無理だし、一泊二日では時間が余る、といったことから二つの山に登ることが多い。

島原外港から熊本港にあがり人吉に着くまで雨の中だった。

えびのの女性一人と上村キャンプ場で合流することになっている。ここに着いたのは11時少し前、雨は小降りになっていた。もしかして、低気圧の通過が予報よりも早く、午前中の雨で峠を越し、このまま雨はあがってくれるのではないかと都合よく解釈した。

とりあえず白髪岳登山口まで行ってみることにした。林道をつづら折れに曲がりながら高度をかせぐ。途中、雨はあがりガスが切れ、標高1000mから眺める雲海は見事であった。この景色を見て、天気は回復すると元気がでた。写真を一枚撮りたいと思ったがもっと上に登れば、もっと良い眺めがあるだろうと欲をだし通過した。

30分で白髪岳登山口に着いた。靴を履き、装備を準備し始めるとまた降り出した。

せっかく準備したのだから500m先にある猪ノ子伏まで行ってみよう、その後は天気次第で進むか戻るか判断すればよい。

足元は粘土質の道ですべりやすく、急勾配ではないが苦労した。500mは15分もあれば到着するはずである。行けども行けども猪ノ子伏の標識が見つからない。出発してすでに30分は過ぎている。依然として雨は降っている。猪ノ子伏も白髪岳もあきらめ引き返すことにした。

帰りは周りを眺めゆっくりと降りた。原生林のブナが多い山である。大木が朽ちて土に返りつつある風景があちこちで見られた。赤銅色に光ったヒメシャラの大木も見事である。広範囲にわたって低木の蕾みをつけたミヤマキシミが道を塞いでいる。掻き分けて進むと腰から下は雨露でずぶ濡れになった。

登ってきた距離の中間付近まで戻って所に猪ノ子伏の標識はあった。往きには確かにこの標識は見て通り過ぎた。よもやこれが猪ノ子伏の標識とは思わなかった。


往きにこの標柱の向こうを通った。

角材に白いペンキが塗っただけのもので文字は書いてなかったような気がする。原因は標識の東側を通ったか西側を通ったかの違いであった。文字は西側に書いてあり、私たちは標識の裏面を見てそのまま通過したわけだ。標識の見落し、読み違いは人命に関わる遭難を誘発する原因となり得るだけに、マンネリ化した気持ちを引き締めるよい教訓になった。

出発して登山口に戻ってくるまで、雨の中を1時間30分歩いていた。

入浴と昼食を上村の薬師温泉でするつもりで下山した。着いたとき、すでに午後2時になっていた。

ひっそりとしている。この雨で温泉のお客が少ないのだろうか。いや雨の日は逆に賑あうはずだ、と思いながら入口に行ってみると『浴槽の改装中、2月13日〜3月10日まで休館』の張り紙にがっかりする。

そこの玄関の軒下で雨宿りしながら、冷たい握り飯を食べるときのみすぼらしさは何ともいいようがなかった。

ここを早々に発って、五木村の子守唄公園にある温泉を目指した。薬師温泉から子守唄公園までは川辺川沿いに40分は遡らなければならない。また雨は強くなってきた。

温泉は、村営の浴場で『五木村温泉利用施設』と堅苦しい名称になっていた。裸になってガラス戸を開けると浴槽には誰も入っていない。やはりこの強い雨で人出はないのだろう。冷え切った身体を浴槽に首まで浸かり、窓越に外を眺める。

窓のすぐ傍は川幅の広い川辺川になっている。青く澄み切った清流が勢いよく流れているが窓で遮られ、流れの音は聞こえない。川の向こうは自然林の急斜面が立ちはだかり窓枠には空は見えなかった。浴槽を出て窓に近付き見上げれば、空が見られるかもしれないが黙って身体を温めつづけた。

谷を吹き抜ける風任せの雨は、縦縞模様の濃淡を描きながら川上に移動する。それは夏場によく見かけるにわか雨の雨足によく似ていた。そのことが雨の強さを物語っている証拠でもある。


五木子守唄公園(翌日帰りに写した)

五木村温泉利用施設
(翌日帰りに写した)

この温泉も子守唄公園も川辺川ダムが完成すれば湖底になる運命にある。すでに代替地は完成し、家屋など施設は新築中である。この温泉も代替地に建替えられていると聞いている。移転の時期は分からないがいずれにせよ、またこの浴槽に浸かれる機会があるかどうかはわからない。そう思うとしんみりと感傷的になってしまった。

ロータリーフュッテをリーダーたちが交渉して、今夜はここに泊ることになった。計画では、白髪岳に登ったあと、その麓にある上村キャンプ場にテントを張る予定であった。雨で予定は狂い、明日登る岩宇土山の近くに宿を構えることに変更した。ヒュッテは予約なしであったから満員の時にはテントを張るつもりであった。幸い空いていて雨の中テントを張るわずらわしさから逃れ助かった。

あとは夕食を作り、楽しい歓談の夜を迎えるばかりである。


ロータリーフュッテ

囲炉裏に焚き火で夕食風景

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