川風呂(鹿児島・霧島山系)
平成12年5月5日 はれ 参加者14名
5月4日、ハイキングクラブの仲間と霧島山系の山に登った。
韓国岳から高千穂峰まで縦走して満足感を味わった翌日、縦走の案内役をしてくれた鹿児島ラリーグラスの山の仲間たちが、露天風呂の穴場、山ヶ城温泉を案内してくれた。
山ヶ城温泉と地元の人たちが呼んでいるこの場所は、地図にも観光案内図にも載っていない所である。
林田温泉を通り抜け、しばらくして舗装道路から林道の脇道にはいる。凹凸道を曲がりくねりながら、いくつもの山を越え谷を通った。林田温泉から北の方角に進んでいることは間違いなさそうである。
四輪駆動のワゴン車は悪路でもグイグイ登って行く。右に左に車体は激しく揺れ、平坦な道に慣れてしまった身体はバランスを取るのにひと苦労だ。
路肩の少し広くなったところに、関西ナンバ−の二輪車が5、6台、鹿児島・宮崎ナンバーの乗用車が二台停まっていた。ここが山ヶ城温泉の入り口だった。
林道から獣道のような下り坂を谷底に降りると木立の間から白く立ち上る湯気が見えてきた。
「風呂に入ってきたの?」挨拶がわりに私は声をかけた。
「はい。気持ちよかったです」その中の一人が答えてくれた。先を急いでいるのか若者たちは足早に登り去った。
河原は、大小の石が転がりその間をお湯が流れている。小学生の草野球ぐらいはできそうな広い川原である。
急な流れ、淀んだ水溜まりと様々だ。湯ノ花(湯あか)が付着しているためか石肌は石灰石のように白い。川底の砂も白い。川岸のあちこちで勢いよく噴煙を上げているそばに近寄ってみると、ゴーッと恐ろしいほどの音がしていた。伸ばした手に沸きあがる飛沫がかかり、慌てて手を引っ込めた。
グリーグラスの仲間は、せっかく来たのだから裸になって、ひと風呂浴びて帰ったら、と勧めてくれたが長崎から来たオレンジハイキングクラブの女性達は「水着を持っていないから」と後込みした。
河原では、宮崎からやって来たという男女三人がお湯に浸かってビールを飲んでいた。三人の身体のあちこちに粘土のような湯ノ花がくっついている。
ズボンの裾をまくり上げて浸かっている私たちの所に、その中の一人のおじさんが近づいてきた。湯ノ花に覆われた小石を二つ持っている。
宮崎独特のイントネーションで「こいよ(これを)ごて塗れば(肌に塗ると)
と言いながら隣の女性に渡した。
受け取ったその女性はさっそく腕に塗っている。もう一人は、「綺麗になるんだったら顔に付けようか」と言いながら小石の湯ノ花を顔に塗って戯けて見せた。その顔は等黄卵化粧をした歌舞伎役者のようだった。
このおじさんはビールで一杯機嫌になったのか、調子に乗って、
「もちょっと(もう少し)早く来れば、わけもんが(若者たちが)すっ裸
と言ってみんなを笑わせた。
さっきすれ違ったあの若者のことらしい。まじめな顔して戻っていた姿が浮かんできておかしかった。
世の中、不景気でぎすぎすしているようだが、『のんびりした極楽もあるも
(注)「振りキン」とは、男性が素っ裸で一衣纏わないでいる姿のことをという。