南アルプス紀行
(北岳・間の岳・農鳥岳縦走)
里山歩きを始めてからもう三年半になる。 65歳からのスタートであり、よもや北や南のアルプスに挑戦できるとは思っても見なかった。昨年は北の雲の平周辺の山々、今年は南の山へと登ることができた。 亀に似た鈍い一歩一歩だが「こんな気力と忍耐力」がまだ残っていたのかと本人は驚いている。 ここまで挑戦できるように育ててくれた「オレンジハイキングクラブ」の先輩方に感謝する。 |
コース地図 |
南アルプス・白峰三山縦走 期 間 平成14年7月22日〜27日 行 程 7月22〜23日 7月22日諫早駅集合 17:00 冨士駅発 10:14(ふじかわ3号)甲府駅着11:57 甲府駅前発13:10(山梨交通バス)広河原ロッジ着15:20(泊) 7月24日 7月25日 北岳山荘6:00 ⇒ 中白峰 ⇒ 8:00間の岳8:10 ⇒ 農鳥小屋9:10 ⇒ 西農鳥岳10:20 ⇒ 11:00農鳥岳12:30 ⇒ 大門沢降下点13:05 ⇒ 大門沢小屋16:20(泊) 7月26〜27日 奈良田温泉で入浴(町営温泉) 奈良田 12:00⇒身延山奥の院 13:00着 (ジャンボタクシー10人乗り17,500円) 身延山見学(約6時間) 身延山 ⇒ 身延駅 タクシー (料金3人乗り1,690円) 身延駅発18:18(ふじかわ12号)富士駅着19:13 冨士駅発20:09(さくら)諫早駅着27日12:39 |
JR甲府駅に予定とおりに着き、バスセンターへパーティー6名は大きなザックを担いで階段を降りた。 初老のおっさんが近寄ってきて「何処まで行くのか?」と尋ねた。「広河原」までだというと「ジャンボタクシーに10名乗って2万円。同じところへ行くあとの4人を探してタクシーで行かないか」と勧誘する。 あとの4人をこちらで探す?「おっさん、あんたが探しなされ」と口から出そうになったが、そこはグゥーと堪えて丁寧に断った。 乗車口にザックを並べていると、バスセンターの案内人が「このバスに乗れますよ」と言う。12時10分過ぎであったが、12時発のバスはまだ出発していなかった。こちらの計画では、ここで昼食を済ましてから13時のバスに乗ることにしている。 「ザックは置いたままここを離れても構わないが出発10分前までに戻ってください」と言う案内人にうなずいて近くの食堂に向った。 店内は昼飯時で客が多かった。バスの出発時間まで40分しかない。メニューを開いていろいろ吟味したが結局一番早くできるカレーに全員落ち着いた。 運ばれてきたカレーはさすがは「ぶどうの産地・山梨」である。干しぶどうが豆ご飯のように多く混ざっていた。そのせいか辛いイメージのカレーは甘くて食事としてはいまいちだった。 出発10分前にバスに乗り込んだ。バスは23〜25名が乗れる小型である。狭い山道を登るのだからこんなものだろう。 合理化でワンマンバスしか見かけない時代だが、このバスは違っていた。女性の車掌さんが大きな黒い巾着を前にぶら下げ、パンチのはさみをカチャカチャ鳴らしながら座席を回ってお金を受け取り、切符に穴をあけて渡した。
出発の時間になった。乗客は13名でザックは空いた席に置いた。 突然、一人の女性ハイカーが騒ぎ出した。JR駅で降りる時に帰りの切符まで渡してしまった事に気付いたのである。車掌と運転手に断り、JR甲府駅に走って行った。 「ないものと諦めていたが探しに行ってよかった」とニコニコ顔で戻ったときバスの中は拍手がわいた。 出発直前になって最前列の座席に座っていた60歳ぐらいの男性が、お茶やジュースの入ったダンボウル箱を抱えて「好きなものを取って下さい」と言いながら座席を回った。みんな呆気に捕らわれて躊躇していたが「お金はいただきません、どうぞ」と半強制的に受け取らせた。しかし、その顔はニコニコとして好感の持てる老人だった。 出発するときには女性車掌は車から降りるのかと思っていたがそのまま一緒に乗ってきた。 バスは信号の赤で停まり青で進む、の繰り返しをしながら市街地を抜ける。飲み物を配って回った男性は、最前列の座席から立ち上がり、くるりと向きを変え観光案内を始めた。いったいこの人何者か?13人の乗客は皆そう思っているに違いない。 車掌のほかにガイドまでつけ、そのうえに冷たい飲み物のサービスまでしてくれる山梨交通バスにはありがたいが何となく不可解な気がしないでもない。 観光名所の案内が終わると、遠くの山の説明をし、話題がなくなると乗客に「あなたは何処から来てどの山に登るのか」など問いかけてきた。 東京から来たという男女4人のグループ、山形出身の男性と大阪出身の女性は山で知り合い結婚した。きょうは北岳に登るのだと言う。単独行の男性は夜叉神峠から鳳凰三山に挑戦するのだと言った。 我が6人のグループは九州は長崎からだと聞いて、一同はびっくりした様子だった。それははるばる遠方からやって来たという驚きであろう。 当人達にとっては、遠いところの山に登るという意識はあるが、同じ日本の国内だから本州の人たちがびっくりするほど気にしていない。九州を遠い島国と特別視されること自体に戸惑い、驚くのは九州人である。 車内は賑やかだが、道は狭くなり曲がりくねった坂をバスは登って行く。大型のダンプトラックが連なって降りて来る。そのたびにどちらかが離合できる場所まで後すざりして譲り合う。 急峻な山の側面を切り開き、無理やりに作った山岳道路は谷底を見れば身が縮む高さにある。トンネルも多い。広河原に着くまでいくつトンネルがあるかと尋ねたら40はあるだろうとハンドルを握りながら運転手は答えてくれた。 和気合いあいの中に、時には肝を冷やしながらの2時間のバスの旅は終わり、終点の広河原ロッジに着いたのは15時20分であった。 これまで黙っていた車掌さんが最後に、 「この方はわが社の男性ガイドさんでした。今年定年退職され自由人。今日は会社に用事がありお見えになりました。たまたまこのバスに空席があり、昔とった杵柄で案内していただきました」 そうだったのか、それで謎が解けた。楽しいバスの旅をありがとう。
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