大台ケ原・大峰山紀行(6)
行 程 |
午後からは雲が切れ、青空が見えるまでに快復した。 ザックは宿泊の部屋に置いて和佐又山に登ることにした。予定表ではWさんたちと明日登ることになっている。今日登っておけば、明日はヒュッテから直接大普賢岳コースへ歩き、回り道しなくてすむ。時間にして40分は短縮できる。 明日の長丁場を考えると40分の短縮はありがたい。 荷物なしの里山歩きといった気分で登りはじめた。道の両側から低木が枝を延ばし掻き分けて登った。まもなくしてブナ林になり歩きやすくなった。山頂に登ってしまうまで樹林のなかを歩き遠い景色は見られなかった。
山頂も大きな樹に遮られ視界は悪かった。石を三角形に積み上げ『和佐又山』と書いた札が建ててあった。下山は大普賢岳コースに向って降りた。 三叉路に出ると道標があった。この地点からヒュッテまで0.7kmとなっている。明日はこの道を登ってくれば和佐又山を巻き道して楽である。
ヒュッテに帰り着いた15時ごろはすっかり晴れあがり強い日差しが差し込んでいた。駐車場の横の土手に寝転んで時間を過ごした。今こうして青い空を眺め、のんびりできるのは長岡の人達のおかげだと、大台ケ原の出来事を振り返って感謝した。 今夜の泊りは二人だけかと思っていたら夕方になって若い男性が一人下山してきた。三段ベットが張り巡らされた大広間は300人が寝泊りできそうだ。その部屋に今夜は3人泊る。広すぎて淋しいくらいである。 夕食は鴨鍋が出た。山菜が山盛りでありがたがった。どちらかと言えばこの2日間野菜不足で一番食べたいと思っていたものがタイミングよく出てきた感じである。二人で食べ尽くしてしまった。隣の若い男性はカレーを食べている。お代わり自由のカレーを勢いよく食べてはお代わりをしていた。 8時過ぎ、Wさんに電話をして、ヒュッテに無事ついたことを知らせ、あすの出発時間の確認をしあった。 いよいよ明日は初対面である。ネット上で知り合ったのは今年の一月、私はWさんの顔はホームページで知っているがWさんは私の顔はまったく知らない。 もしかしたらWさんの方が私よりも緊張しているだろう。こんなことをあれこれ考えているとなかなか寝付かれなかった。 5月24日 はれ 朝食6時の約束で、前の晩から暖めるだけに食事は用意してもらっていた。昼の弁当も出来あがっている。ガスコンロで味噌汁を温めどんぶりにご飯を山盛りに入れた。 梅干や漬物は壷から自由に取って食べられる。こんなところに来て好きなだけ食べられるとはありがたい。久し振りに美味しい味噌汁にありついた。味噌汁のお代わりをした。 昨日4人組の女性たちが弥山小屋の弁当のおかずはまずいという話しを思い出し、梅干と漬物をサランラップに包んだ。 食事が終わるころ管理人の奥さんが起きてきた。 出発前には、必ず登山届を書くこと、下山したらまた必ず下山届を出すようにと念を押された。このごろ大普賢岳で遭難が続いて発生しているから地元としては厳しくチェックしている。下山届を怠ると大変な騒ぎになるから、縦走した場合には下山した所から必ず電話でここに連絡をしてくださいと強く言われた。 7時になった。Wさんたちはまだ到着しない。朝4時に自宅を出ると電話で話した。 三十分過ぎても着かない。Kさんと1時間経って着かないときには電話をしてみようと話していたらそれらしい京都ナンバーの車が着いた。 助手席に座っている人の顔はホームページで見た顔とそっくりで、すぐWさんだとわかった。車に近寄り二人が出てくるのを待った。 相対して挨拶を交わしたが、そのとき第一声はどんなことを言ったのか浮かんでこない。やはり緊張していたのだ。 トランクから装備を出し準備されるのを待った。Wさんのザックはいかにも重そうである。食料は手分けして持ちましょう、と言うと「持っていただいていいですか、すみません」と大人しい声が返ってきた。体は大きいが心はやさしい人のようである。 小さな包みを取り出し、Kさんと私に遠慮がちに差し出された。これだけでは少ないと思ったが自分の装備と合わせるとこれ以上担げそうにもない。途中でへばってしまえばかえって迷惑かけるから受け取った1個だけにした。 準備完了。数歩歩き出したところでWさんから「記念の出発写真を一枚」と声がかかった。
朝日を背中に受けて坂を登りはじめた。みんな張り切っているのか足が速い。特にTさん(WさんはTさんのことを『山の鉄人』と呼んでいる)は先頭になってぐんぐん離して行く。私はTさんのすぐ後につけていたが諦めてマイペースに切り替えた。 歩き始めの1時間でその日のコンデーションが決まってしまうと言われている。出だしで無理したら、あとはばててしまいその日はだめになる。 10分も登ると樹林帯にはいった。斜め右から差し込む朝陽が新緑を透き通って顔に当たる。和佐又山と大普賢岳の分岐まで20分で来た。きのうこの分岐からヒュッテまで20分で帰り着いている。下りと同じ時間で登ってきたわけだ。かなり速い。 ここで一息入れ水を飲む。Wさんは、もう汗が顔から流れ落ちている。汗かきの体質なのかザックが重たいのかのどちらかであろう。 2日間の苦労の長丁場はいま始まったばかりである。今日の体調は、1時間歩いてみないと判断できないがいまのところ快調のようである。 |