大台ケ原・大峰山紀行(3)
※ 背景画像は、八経ヶ岳から眺めた大普賢岳(左)行者還岳(手前中央)和佐又山(右)
行 程
5月21日 諫早〜大和上市(奈良県吉野郡大和上市・桜亭泊)
5月22日 大和上市〜大台ケ原(大台荘泊)
5月23日 大台ケ原〜和佐又山登山口(和佐又山ヒュッテ泊)ヒッチハイクで移動
5月24日 和佐又山登山口〜笙の窟〜大普賢岳〜七曜岳〜行者還小屋(小屋泊)
5月25日 行者還小屋〜一ノタワ避難小屋〜弁天の森〜弥山〜八経ヶ岳〜弥山小屋(泊)
5月26日 弥山小屋〜狼平〜栃尾辻〜天川・川合〜バス・電車・新幹線で諫早へ
12時ちょうど、日出ヶ岳(1695m)めざして出発する。
Kさんは、胃袋にものが入っている間はゆっくりと歩くのだといってスローペースである。私はそんなことには無頓着でいつでも同じペースだからどうしても速くなってしまう。
先に進んでは待ち、先に行き過ぎては待ちしながら歩いた。なだらかで道も整備され最高のハイキングコースである。山頂近くになって、急な木道が続き汗ばんできた。
日出ヶ岳に着いたころには雲は高くなり薄日がさしてきた。展望台からの眺めは快晴の時には及ばないまでも遠くの山が望めて良しとしなければなるまい。
南に尾鷲湾、西に大峰の山並み、北には遠く富士山が見られるというが、きょうの視界は、尾鷲湾らしき色合いが山の裾に確認できるし、西の方向は太陽の傾き具合からか、かなりはっきりとしている。明日、明後日と登る予定の八経ヶ岳、弥山、大普賢岳を表示版と見比べながら確認し、あまりにも遠い峰峰に、はたして登れるだろうかと諫早を発った時の意気込みがしぼみ、不安が芽生えてきた。
10名ぐらいのツアーを引き連れてきたガイドは、この方向に富士山が見えることになってますが今日は見えません。冬で空気が澄み切って晴れた日に、それも肉眼では見えません。望遠レンズを透してでないと・・・・。北の方を向いて説明している。
盗み聞きしながら「そうか、そうか」と納得した。初めて来てこれだけの展望に恵まれたのだからラッキーだ。おれも精進の良い人の分類にはいるのかな?
日出ヶ岳(1694.9m)山頂 | 鹿の家族? |
展望台から下りて、石楠花の花を写真に撮っていると4匹の鹿が近寄ってきた。どうも家族のようである。野生の動物とはいいながら人間を警戒するでもなく、逆に近寄って来るところから餌をねだっているのかもしれない。
登って来た木道を折り返し、三叉路まで降りた。右に進めば駐車場にたどり着く。そのまま直進して正木峠に向う。このごろ整備されたらしい新しい木道が延々と登りをなしている。峠と越して下りになっても木道は続いた。
ここの辺りは、40年前まではトウヒが青々としていたらしいが、いまは枯れ、針の山のようになっている。その経過は40年前写真を撮ったその位置に写真つきの説明板が設置されており、写真と現在の風景を見比べれば一目瞭然である。
鹿の被害なのか、酸性雨によるものかその説明はなされていなかったが自然が破壊されていく事実を見せつけられた。門外漢の私にはどうすれば元の緑を取り戻せるか対策はわからない。その道の専門家や行政で対策を施されていることを期待したい。
正木峠付近の枯れたトウヒ |
牛石ヶ原まで来るとイトザサが一面に広がり景色が一変する。ここにはそれなりの伝説があってのことであろうが、いかめしい神武天皇の銅像が忽然と建っている。原始林の自然を楽しんでいるなかに人工物があると不自然で調和を壊してしまう。
シオカラ谷と大蛇ー(だいじゃぐら)の分岐点を左に折れて大蛇ーに向う途中に、この先は危険だからしっかりした装備をした者でないと行ってはならない、と注意板が建っていた。
東大台コースは、山頂まで観光バスで乗りつけ、服装も靴も山歩きには不向きな出で立ちの人が多いからであろう。絶壁に近づくにつれ足元は険しくなり緊張する。
岩場には赤い花が咲いている。アケボノツツジに似ているが花が一回り小さいようだ。
通りかかった人に尋ねたらアカヤシオツツジだと教えてくれた。先端に進むにつれ周りは開け、右に千石ーの絶壁が現れる。その左の方向には深い緑のなかに白い布を引いたような滝が見える。
とうとう大蛇ー展望台までやって来た。足元を見ると下が深くて足が竦んでしまう。先端に尖がった岩峰がそそり立ち根元には紅色のアケボノツツジが彩りを添えている。
大蛇ー展望台からの眺め |
かがみ込んでしばしの間絶景に見惚れた。立ち上がると足だ震え歩けそうにない。四つん這いになって展望台を後にした。何と言ってもここが東大台コースのハイライトだ。
元の分岐まで戻り、シオカラ谷へ降りて行く。急な下り坂で足場も悪いが、ここは石楠花の群生地で石楠花のトンネルになっている。ちょうど満開の時期で、写真に納めたり、振り返って見上げたり、時間をかけて楽しんだ。
石楠花のトンネル |
シオカラ谷の水は岩の上を滑るように流れていた。谷を跨いだ吊橋は歩くと少し揺れた。
カエデ類の落葉樹が多く秋には見事な紅葉だろうと想像しながら吊橋を渡った。
渡り終えると岩場の急な階段を延々と登らなければならない。今日一番の体力を消耗する区間である。登りはじめて30分で駐車場に戻ってきた。出発して4時間かかっていた。
大台ケ原物産店の陳列を一回り見て廻ったが買い物をして荷物を増やすわけにはいかない。何も買わずに休憩所の椅子に座った。半日も歩き続けると疲れる。疲れから甘い物を欲しくなった。あと2時間もすれば夕食の時間だ。腹にもたれない軽い食べ物はないかと改めて探したらソフトクリームがあった。
冷たさが口いっぱいに広がり疲れが抜けていくような感じでのどをとおっていくクリームを特別美味しく感じた。
Kさんとテーブルで向かい合っていると、二人の話はいつのまにか明日の予定に進展していった。二人とも明日は「雨の大台ケ原」と決め込んでいる。いかにしてヒッチハイクの車を捕まえ早く下山するかに焦点は絞られた。
Kさんは「女性だとすぐ乗せてくれるけど、この老いぼれの爺では、誰も乗せてくれないよなぁ」と笑いながら言い「これは年とった男性に対するセクハラだよね」と付け加えた。