歳々年々花同じからず 

H14・3・8  晴れ   参加者7名

多良岳のマンサクの花観賞登山はこれで三回目になる。
 初めてのときは四年前、タイミングよく満開の時期に行き合わせた。翌年はまだつぼみの状態だった。その次の年は用事があって登れなかった。

今年は2月になって冷え込みが少なかったので春が早くやってくるだろうという気象情報であった。

「ちょうど見ごろだった」と一週間前に登ったという人の噂も流れたりしていたが、初めて出合ったときの見事な花群を思い出しながら出発した。

今年のマンサクの花観賞登山は、これまでの黒木コースとは違った金泉寺登山口を選んだ。方位的には黒木コースが西側、金泉寺コースが南側になる。どちらから登っても金泉寺で合流しマンサクの群生地に向うことになる。金泉寺コースは黒木コースのおおよそ半分の時間で金泉寺まで辿り着くから楽である。

お目当てのマンサクの群生地に12時ごろ到着するようにセットして諫早を出発した。金泉寺登山口には1時間で到着、車から降りるとまず聞こえてきたのがウグイスの競演であった。谷を挟んで両方の山から交互に鳴き合っている。わたしは美声にうっとりと聞き入っているが当のウグイスたちは縄張り争いの闘いであるかも知れない。

登山靴を履いたりストレッチ体操をして、いよいよ登りはじめたのは9時40分であった。
 植林された檜で朝陽が届かず暗くて冷え冷えとした登山道である。標高500mともなれば、平地では春だ春だと浮かれているがここは違う。登山道の脇は霜柱が白く光っていた。かなり冷え込んでいるようだ。登り坂を20分も登れば身体も温まってよさそうなものだが金泉寺に着くまでとうとう汗も出なかった。

金泉寺登山口 金泉寺の休憩所には切り株で作った新しい椅子があった。雨除けの杉の皮が被せてあった。

金泉寺からはマンサクの花のところまで20分足らずで行ける。
 金泉寺を出発して5分で尾根に出た。ここから北の斜面を少し下ると笹が岳まで斜面をトラバースするコースになる。これまでの2回はこのコースを通った。今日は先頭を行くKさんが左に折れてそのまま尾根伝いに登って行った。いつものコースと違う。初めての道はどのような景色に出会えるか楽しみがある。
ピーク少し手前で休憩。上海土産だといってパンダのチョコレートが廻ってきた。女性はいつも休憩時間になるとエネルギー補給に甘い物を持って来て全員に配ってくれる。ありがたく貰った。

出発してすぐ下りになった。ここまではなだらかな登りの尾根だったが下りに変わった途端に急傾斜になった。周りの樹木に掴まりながら用心しながらゆっくりと時間をかけて降りる。急坂は登るより降りる方が危険で時間がかかる。

樹木が切れ視界が開けた。降りる足を止めて眺めた。
 黒木の集落が手前にあり、その先に萱瀬ダムの湖面が青く静まり返っている。その遥か向こうには少し霞んではいるが大村湾が望めた。巻き道を通ったのでは見られない景色に出会えてよかった。やはり別のコースも歩いてみるものだ。


急坂を降りながら足を止めて見た眺め。
手前の集落は黒木、中間は萱瀬ダム、山の向こうは大村湾。

坂を降りついて鞍部になり平坦な道に変わった。東側斜面に地面から少し顔を覗かせた緑の新芽が一面に広がっていた。オオキツネノカミソリの新芽である。ヒガンバナの葉っぱに似ている。ヒガンバナは秋に花が咲き、花が終わってから葉っぱが出てくるがキツネノカミソリは先に葉が出て花時期の7月には葉っぱはない。

オオキツネノカミソリの開花時期にこの場所にきて疑問に思ったことがある。どうして鬱蒼とした樹木に覆われた暗い所にこんなにきれいな花が咲くのだろうかということだった。その時は、この花は太陽の光はなくても育つ、暗いところを好む植物だろうと勝手に決め込んでいたが、今日来てみて疑問が解けた。

夏場に繁っていた樹木は現在すっかり葉を落とし裸樹になっている。冬樹だったのである。今日の斜面は冬の陽をいっぱいに浴びて暖かい。その暖かさに誘発されたオオキツネノカミソリは新芽を伸ばし太陽のエネルギーを吸い取っていた。太陽が差し込むわずかな期間に花を咲かせる準備をしていたのであった。自然環境に順応したオオキツネノカミソリの知恵に感心し、こんなことも知らなかった浅学を恥じるどころか、大発見をしたようにわたしは嬉しくなっていた。

笹が岳まで来た。しかし、いつもの枝に花が咲いていない。

陽の当たるクマササの中に座り込んで3人の男性がビールを飲んでいた。声をかけると黒木から経ヶ岳を縦走して多良岳に向っている途中で、昼飯を食べているところだった。この3人は二日市・大宰府から来たと話してくれた。

マンサクの花の群生地はまだ少し先である。経ヶ岳方向に再び歩いた。

行く手、右側の笹が岳の岸壁には幾条ものツララが垂れ下がり滝のような光景をなしていた。そこを通り過ぎ先へ行ったがマンサクの花は見当たらなかった。初めて来た時に咲いていた見覚えのある樹に出合ったが、すでに枯れた花柄が少し付いているだけだった。

諦めて笹が岳まで引き帰し、ビールを飲んでいた3人組みと入れ替わりにここで昼食にした。

中国の詩人・劉希夷は『年年歳歳花相い似たり、歳々年々人同じからず』と詩っている。たぶん中学生のときに習った漢詩だったと思うが語呂がよかったためか、これだけは不思議と今まで覚えている。

今日のマンサクの花は『年年歳歳人相い似たリ、歳々年々花同じからず』と読み替えたほうがよさそうである。


笹が岳の麓に咲いていたおそ咲きのマンサクの花。せめてこれだけでも見ることができてよかった。

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