自己嫌悪

何気なく吐いた独り言が一ヶ月経ったいま、私自身を苦しめている。

昨年の暮れハイキングクラブの忘年会で「お尻を向けて座った」と私は独り言のつもりで云ったのだが・・・。

開宴定刻少し前で、座席は空席が多く座っている人はまばらであった。30数名の宴会場は大広間に長いテーブルを二列に並べ、それぞれのテーブルは向き合って座るように設定してあった。

私は舞台に向かって右側のテーブルの右に座った。ここからだと左側のテーブルが見える。私のすぐ前の席も、左側のテーブルの正面も、まだ誰も座っていない。

いつもの登山スタイルではなく、和服でめかし込んだA子さんがやって来た。

歩いてくる方向からして、私のすぐ前の席に座るのかなと思った。A子さんは向きを反対に変え、向こう側のテーブルの真正面に座った。A子さんは私に背を向ける格好になった。

そのときお尻がまともに見えたので、つい「私にお尻を向けて座った」と口走ってしまった。それは忘年会というリラックスした雰囲気のなかで、ジョークのつもりだった。

席は座ったり立ったりと人の動きが激しかった。私は漠然と会場の動きを眺めながら時間を待った。正面に座っていたA子さんがいないのに気付いたのはしばらく経ってからだった。今度は向こう側のテーブルの左側に座って私とは顔を合わせる向きになっていた。

宴たけなわになり、横にいたB子さんが、
「A子さんに話しましたよ」と言い出したが私は何のことだか分からない。
話しているうちに、あの独り言のことだとわかった。私は独り言のつもりであったが隣にいたB子さんに聞こえていたらしい。

B子さんも面白半分にA子さんに伝えたのは話し振りで感じ取れた。そのことはすぐ忘れ、面白おかしくときを過ごした。

年が代わり一月になって山歩きは二回行なわれた。
今までよく参加していたA子さんが二回とも顔を見せない。主婦業だから正月の月は忙しいのだろうと思っていたが、忘年会の一件がふと頭に浮かんできた。

あのひと言が原因で参加されないのだろうかと考え込んだり、いやあの人はこんなことぐらいで臍を曲げるような人ではないと打ち消してみたり、自己嫌悪に陥っている。
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