夏山に涼を求めて(大花山・鳥甲岳)   

H13・8・24  参加者11名

 

わがハイキングクラブの中には高齢者を主体に平日山行をする「ひまわり山行部」というのがある。この山行部は公共の交通機関を利用して日帰りできる範囲の山を歩くのが目的である。

このように制約が多い「ひまわり山行部」が長崎県内の山に涼を求めて山歩きをするとなると場所選びが大変だ。

沢の音を聞きながら冷風に吹かれ、山頂に着くまで木陰で、と贅沢な願望すべてを満たしてくれる山は少ない。

これから登ろうとする大花山(865m)と鳥甲岳(769m)は、これらの涼の条件をいくらかでも満たしてくれそうな場所として、二ヶ月前の「ひまわり集会」で決まった。

家を7時に出て、電車、バスと乗り継ぎ、黒木バス停に着いたのは9時半であった。すでに夏の陽は高くバスを降りると熱気が身体に纏わり付く。

バス停から登山口の木陰に着くまでおおよそ10分と近いが、その10分間が照りつける林道で汗が吹き出る。

木陰に着いてザックをおろし、汗を拭き準備体操をする。杉林の木陰は涼しい。それに沢の音が聞こえてくるから涼しさは倍に感じる。

去年の11月、五ヶ原岳に登るときこのコースは横峰越までは歩いたことがある。今日は二回目だ。あの日は寒波がやってきて歩き始めは、なかなか身体が温まらなくて手を擦りながら登った記憶がある。

麓の植林は枝を下ろし手入れが行き届いている。しかし、山深くなるにつれ、荒れた檜の山に変わってくる。背丈3メートル足らずの檜は根元から枝が付いたままである。梢の陽が当たる部分だけが緑色で陽の当たらない下枝は枯れている。

風通しが悪く湿気を含んだ檜の中は、黒ずんでトンネル状になっていて昼間でも暗く、とてもここは単独行では気味が悪くて通れそうにないところである。

暗いトンネルの道を登ること10分。長く感じた。ここを抜け自然林に変わり明るくなった。

ここのあたりまで来ると枯れ沢で水の音はもうしない。聞こえてくるのは夏の終わりを知らせるミンミンセミの鳴き声だけである。暑苦しく鳴くクマゼミと違ってミンミンゼミの鳴き声は谷間にこだまし、何となく寂しさを感じるのは私独りだろうか。

谷間を登りつづけて1時間半、やっと稜線に辿り着いた。ここからは尾根伝いの平坦な道が林道出会いまで続き一息できる区間である。

樹間の切れ間から今日の目的地の1つ大花山が谷1つ隔てた右手に望める。すぐ近くに見えるが大花山まで辿り着くには大きく左に迂回し横峰越を通って、これから1時間はかかる。

林道出会いでザックを下ろし休憩する。ここから横峰越までの30分は急な登り坂のガレ場に変わり今日一番の難所だ。それぞれに水分と燃料補給をしてエネルギーを蓄える。

一息入れて最後の難所に向かって出発。不安定なガレ石の間をゆっくりと焦らずに高度をかせぎ横峰越(780m)に着いた。

東に稜線を辿ると五ヶ原岳になる。大花山へは西の稜線の右側に向かえばよい。ここからしばらくはなだらかな勾配の尾根道である。樫の大木が茂る道は厚い落ち葉のジュウタンで何とも足に優しいコースが続く。

大花山に着いたのは1215分。かなりのゆっくりペースであった。山頂とはいえ樫の大木に覆われ視界は効かないが木陰で涼しい所だ。ここに辿り着くまで風はなかった。しかし木漏れ日の連続で蒸し暑さは感じなかった。

弁当を食べながら周りを見渡すと巨木の根元に石楠花の低木があちこちにある。この石楠花の群生から大花山の名がついたのだろうか。来年の花の時期に再び訪れてみたい。

13時、鳥甲岳に向かって出発する。二合半越までの30分は下りになる。満腹の身体は動きが不自由で調子が出ない。身体が慣れたころには二合半越だった。

ここで二合半岳(799m)を経由して大原越に出る組と谷間を下って林道を経由する組に分かれた。林道を歩く女性3人だけでは心細いだろうからと私もその組に廻った。

林道コースは距離が短く楽ではあるが太陽が照り付けて暑い。大原越には林道経由組がかなり早く着いた。

二合半岳から来る組を待って、鳥甲岳まで登る時間的余裕があるかどうかを話し合った。ここからバス停まで一時間はかかる。現在の時間1420分、残り2時間半である。このまま下山すれば一時間半のバス待ち合わせ、鳥甲岳まで往復すれば少し急がないと発車時間に間に合いそうにない。苦しい選択である。ここでも意見がわかれた。

無理をしてでも登りたい、早く下山してゆっくりしたいの二つの意見。二つに別れ行動しても道に迷うようなコースではないから二手に分かれることにした。

鳥甲岳は初めてだし、展望が効く山だと聞いていたので今日登っておきたいと思った。鳥甲岳には5人で登り、あと6人は下山してゆっくりすることに決まった。

大原越から高低差150mの鳥甲岳まで1時間で往復するにはこれまでのゆっくりペースではいけない。ペースをあげ急な坂を登った。これまでの落ち葉ジュウタンの道と違って岩石が多く気合を入れなおし進んだ。

展望の効く岩峰が鳥甲の山頂かと思ったら鳥甲岳の山頂はまだ5分ぐらい先のところで、大村工業高校山岳部が木の幹にぶら下げた標識があった。ここは樹木が茂り展望は効かなかった。

急いで戻り岩峰に立った。視界は北の方角だけで青空に三角形に聳えた経ヶ岳がデーンと構えている。その裾野には黄色に色付いたそれこそ猫の額ほどの棚田がへばりついている。その場所は黒木バス停の終点であることはすぐ分かった。バスの時間を気にしながら早々とここを引き上げた。

今日の山行は無風状態で、沢の音を聞きながら冷風に吹かれ、山頂に着くまで木陰で、との願望すべては満たせなかったが、沢の音を聞きながら、山頂に着くまで木陰での二つだけは叶ったようである。


鳥甲岳から経ヶ岳を望む。中央下は黒木部落
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