ながぁーい1日の終わり (7月25日三俣山荘泊まり)
写真は最後にあります
Bさんは今夜双六小屋に宿泊することになった。本人は昨夜眠れなかった睡眠不足が原因ですから、何処も悪いところはありません。今夜一晩、ここでゆっくりと休養すればいつもの元気な身体に戻ります。体調が良くなったら明日ワサビ平まで引き返えしますと言った。リーダーはその言葉を信じるから確実に下山するようにと約束させ7名は先に進むことになった。
双六小屋から双六岳にのぼり,稜線沿いに三俣蓮華岳を通って三俣山荘入りする計画は取りやめ、巻き道を通ることに変更した。コースは変更しても15時30分までには山荘に着きそうにない。
ここ双六小屋からは無線の交信状態が悪い。双六岳の巻き道分岐まで登ってから川原さんに無線連絡をとることにした。この山行計画を企てる段階で緊急時には川原さんと無線連絡をとることで話がついていたからである。
ここで川原さんという人物の紹介を少ししておこう。
現在わがハイキングクラブの技術研修部長としてクラブをリードしている人である。3年前の平成10年5月20日、日本人として最高齢で世界最高峰のエベレストに酸素ボンベなしで登頂したアルピニストである。毎年、夏山シーズンの7月から9月の間は雲の平山域で登山道の点検整備に携わっている。
今回の山行は、影にこうした心強い味方が存在したから安心して実行に移せたわけだ。リーダーはできるだけ自分たちの力で遂行したいと思っていたに違いない。が初日にして思わぬアクシデントで川原さんを頼り無線連絡を取ることになってしまた。
無線交信によると彼は現在三俣蓮華岳付近で作業しているとのこと。われわれは15時30分までに三俣山荘に到着できそうにない。17時ごろまでには小屋入りをするので7名分の夕食と宿泊の予約をしてくれるようにリーダーはお願いした。「了解!」の電波に一安心。
これで今夜の食事と宿の心配はなくなった。山荘に向かって進むだけである。
双六小屋のベンチにはたくさんの登山者が休んでいた。まだ14時前だというのにもう小屋入りをするものもいた。私たちはこれから2時間かけて次の山小屋まで行く予定である。この先、道のりの緩やかで楽なことを願った。
鏡平小屋を出発してしばらくの間、視界の開けない樹林帯を登った。弓折岳の稜線に辿り着くとぱっと視界は広がり、三俣蓮華岳が鎮座しその先には鷲羽岳が見えた。そのとき標高2500mまではクリアしたぞ。今日の胸突き八丁はほぼ乗越えたと一安心した。
その瞬間張りつめたものが少し緩み、楽をして登りたいという思いに傾いていった。事実、弓折岳から双六小屋までは何箇所かのアップダウンはあったが緩やかな降り勾配で楽であった。ゆっくりした足取りとはいえ8時間も歩き続けると楽になりたいと思う気持ちで頭がいっぱいである。
長い時間休憩した後の身体は重たく、調子が出ない。双六小屋から双六岳巻き道分岐までは10分ぐらいの急なのぼりになる。身体を慣らすのに苦労した。
話が前後してしまったがこの巻道分岐まで登った時にリーダーと川原さんの無線交信がなされたのである。
巻き道は緩やかで楽になった。前方と行く手右側は常に視界が開け、ハイマツを伝わって吹き上げてくる冷風が身体の湿気を拭い去りこれまでの8時間の環境とは雲泥の差である。
疲れも忘れ、足取りは軽くなってきた。雄大な眺め、さわやかな空気のなかに浸かっているとやっぱり参加してよかった思った。
道で遊ぶ雷鳥の親子に出会い、しばらく眺めていたが一向に道を空けてくれそうな気配もなく、そっと足を交わして通り過ぎたら雛は四方に散らばり、親鳥は懸命にクックッと子供を呼びその場を動かなかった。私たちが通り過ぎたあと雛は親のほうに近寄っていった。
なだらかなアップダウンはハイマツと岩石とお花畑の連続で通り抜ける風の冷たさに感謝しながらゆっくりと三俣蓮華岳分岐に向かった。あちこちで雷鳥の鳴き声が右から左から聞こえてきた。
単独行で降りてくる60前後の男性は「今日は三俣山荘までですか。山荘からここまで50分かかりましたよ」と挨拶替わりに時間を教えてくれた。行き交う人は三脚を担いだり大きな写真機を首から下げた人が多かった。
三俣蓮華岳と巻き道の分岐まで来ると後は三俣山荘まで下りになる。
時計は16時50分になっていた。双六小屋を出てから3時間である。ここでも1時間オーバーだ。双六小屋とこの分岐までの中間でCさんが足首を捻挫し手当てをしてゆっくりと歩いてきたからである。本人は皆に迷惑をかけてはいけないと思って足を引きずりながらも痛い表情は顔に出さず頑張っている。
坂を下りかけた所で砂浴びをしている雷鳥に道を塞がれここでも待った。すでに17時は過ぎ気持ちは焦っていたがしばしの我慢である。
ハイマツの茂みを抜けた所で鷲羽岳と三俣蓮華岳の鞍部に赤い屋根の山荘が真下に見えた。その近くには色とりどりのテントもある。それを眺めたとき「やっと辿り着いた。今日はもう歩かなくてもよいぞ」と叫びたいほど疲れていた。
12時間にわたる、それはそれはながぁーい長い1日であった。
雪渓を行く |
雷鳥の雛 |
疲れを癒してくれたお花畑 |
三俣蓮華岳と双六小屋の分岐 |
やっと見えてきた三俣山荘 |